遺留分侵害請求権
1 遺留分制度
元来、被相続人は、死後においても自由に自己の財産を処分する権利があり、民法では このような意思を尊重する制度として遺贈や相続分の指定を認めている。
しかしながら、そもそも相続は遺族の生活保障も十分に考慮されたものでなければな らず、こうした意味から相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に留保するという制度を民法は設けている。これが遺留分制度である。
2 遺留分権利者と遺留分の割合
遺留分制度は、相続人のうち一定の者には必ず一定の割合の相続分を確保できる制度 であるが、この割合を「遺留分」といい、遺留分を有する相続人を「遺留分権利者」とい う。 民法では、遺留分権利者及び遺留分を次のとおり定めている(民法1042⦅遺留分の帰属及びその割合⦆)。
相続人が直系尊属(父母など)のみ 遺留分算定の基礎となる財産の1/3
上記以外(配偶者や子供など) 遺留分算定の基礎となる財産の1/2
なお、兄弟姉妹には遺留分権がない。したがって、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合に、 「配偶者に全ての財産を遺贈する」旨の遺言があったときには、全ての財産を配偶者が取 得することになる。
3 遺留分の算定の基礎となる財産
遺留分の算定の基礎となる財産の価額は次のとおりとなる(民法1043⦅遺留分の算定⦆)。
遺留分の算定の基礎となる財産の価額
= 相続時の財産の価額 (遺贈を含む。)
+ 被相続人が生前に贈与した価額 + 特別 受益額 - 相続債務
(注)1 「被相続人が生前に贈与した価額」に算入される贈与の範囲は、相続開始前の1年 間にしたものに限る。ただし、1年以上前の贈与でも、契約当事者が遺留分権利者に 損害を与えることを知って行ったものは算入される(民法1030)。
2 生前贈与が相続人に対して行われ、それが特別受益となる場合には1年以上前の 贈与であっても算入される(民法1044)。
4 遺留分の額の算定
遺留分の額は、次のとおり算定する。
各人の遺留分の額 = 遺留分算定の基礎 となる財産の価額 × 個別的遺留分の割合
なお、被相続人の財産が新たに発見されたり、相続の放棄があって相続分が変わったり した場合などには、遺留分額の算定をし直すことになる。
(注) 具体的な遺留分の侵害額 相続開始時の財産の価額に1年前までの生前贈与の価額を加え、これから債務額を控除したものに遺留分を主張する者の個別的遺留分を乗じ、その額からその者が受けた生前贈与・遺贈の額を控除し、さらにその者が得た相続額(相続債務額を差し引いた正味の相続額)を控除したものが具体的な遺留分侵害額となる。
5 遺留分侵害請求
相続人の遺留分を侵害して行われた遺贈や贈与、相続分の指定は、当然に無効とはなら ない。 しかし、遺留分侵害請求により、相続開始後に相続人が受け継いだ相続財産が自己の遺 留分に満たないときにその遺留分の額に達するまで遺留分を侵害する遺贈や贈与の効力を否認することができる(民法1046⦅遺留分侵害額の請求⦆)。
遺留分侵害請求は、遺留分権利者だけでなく、その相続人や遺留分権利者から相続分を 譲り受けた承継人も行うことができる。 なお、この遺留分侵害請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び侵害すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間これを行使しなかったときは時効により消滅する。 このような事情を知らなかったとしても、相続開始の時から10年を経過したときは時効 によって消滅する(民法1048⦅遺留分侵害請求権の期間の制限⦆)。