遺言と遺贈

 1 遺 言

⑴ 遺言の意義
 遺言を一言でいうと、被相続人の生前における最終的な意思を、死後に実現させるた めの制度である。
 遺言は、一定の方式に従ってされる相手方のない単独行為で、遺言者の死亡の時から 効力が発生する(民法985⦅遺言の効力の発生時期⦆)。 遺言を行った者を「遺言者(遺贈者)」、遺言により財産を取得する者を「受遺者」と いう。
また、遺贈者は、自由に受遺者を決められることから、相続人でも他人でも、個人でも法人でも受遺者となる。
(注) 相続税法では、町内会やPTAといった人格のない社団等が遺贈を受けた場合に は、その人格のない社団等を相続税の納税義務者としている(相法66)。

⑵ 遺言の方式
 遺言は、民法に規定された方式に従ってしなければならず(民法960⦅遺言の方式⦆) その方式に反した遺言(要件を具備していない遺言)は無効となる。 公正証書以外の遺言は、遺言執行の準備手続として、家庭裁判所に提出して「検認」 を受けなければならない(民法1004⦅遺言書の検認⦆)。遺言の検認とは、遺言書の偽造・ 変造を防止し、その保存を確実にするために行われる証拠保全手続であり、遺言の内容 の真偽、遺言の有効・無効を判断するものではない。

○ 遺言の方式とその概要
遺言の方式
普通方式
自筆証書遺言 (民法968)
 遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、押印したもの 公正証書遺言 (民法969) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授するなど一定の要件を 備えた公正証書により行ったもの 秘密証書遺言 (民法970) 遺言者が署名押印して封印した遺言書を公証人及び証人の前に提出し、遺言者の遺言書であることの証明を受けたもの

特別方式
 死亡危急者遺言 (民法976)
 疾病等により死亡の危急が迫った者が、証人3人以上の前で 遺言の趣旨を口授、証人が筆記するなど一定の要件を備えたも の。遺言の日から20日以内に家庭裁判所に請求しその確認を得なければ効力を失う(民法976④)。

 船舶遭難者遺言 (民法979)
 遭難した船舶中に在って死亡の危急に迫った者が、証人2人 以上の立会いをもって口頭で行ったもの。遅滞なく家庭裁判所 に請求しその確認を得なければ効力を失う(民法979③)。

 伝染病隔離者遺言 (民法977)
 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る 者が、警察官1人及び証人1人以上の立会いをもって作成したもの

 在船者遺言 (民法978)
 船舶中にある者が、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって作成したもの (注)

 特別方式の遺言は、遺言者が普通方式による遺言をすることができるようになった時から6ヶ月生存するときは効力を失う(民法983)。

⑶ 遺言の撤回
 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回すること ができる(民法1022⦅遺言の撤回⦆)。 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前 の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023)。
 また、遺言者が故意に遺言書を破棄 したときは、破棄した部分については撤回したものとみなされる(民法1024)。 

2 遺 贈
⑴ 遺贈の意義
 遺贈とは、遺言者が死後に財産を人(相続人に限らない。)に無償で譲与することである。 遺贈には、包括遺贈と特定遺贈がある(民法964⦅包括遺贈及び特定遺贈⦆)。

○ 包括遺贈と特定遺贈

包括遺贈
 財産の全部又は一部を包括的に遺贈するもので、財産に対する一定の割合 を示してする遺贈をいう。 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990)。つまり、被 相続人の権利義務を包括的に承継することから、包括受遺者は、相続財産に対して相続人とともに遺産共有の状態となり、債務も承継し、遺産分割に参 加することになる。
※ 厳密には、包括受遺者は、①遺留分がない、②法人も包括受遺者とな る、③代襲相続は生じない、④相続放棄があったとしても相続分は変化 しないといった違いがある。

特定遺贈
 特定の物や権利、あるいは一定額の金銭を与えるというように、財産を特定してする遺贈(割合で示されていない遺贈)をいう。 受遺者は、その特定された財産を取得することができるが、それ以外の財 産を取得するものではなく、また、遺言にない債務を承継することもない。
(注) 一般的に、被相続人が、子や配偶者など相続人に遺贈する場合には特定遺贈による。また、相続人に対してした「3分の1を与える」といった遺言は、一般的には「相続分の指定」と考えられている。

⑵ 遺贈の効果
 遺贈は、遺言者の死亡の時(遺言の効力発生の時)から効力を生じる(民法985⦅遺言 の効力の発生時期⦆)。
(注) 遺贈は、遺言者の死亡による財産の移転という点において相続と同一の経済的効果 があるので、相続税法では、相続税の課税対象としている(相法1の3)。

⑶ 遺贈の放棄
 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる。遺贈の放棄は、 遺言者の死亡の時に遡ってその効力を生ずる(民法986⦅遺贈の放棄⦆)。 また、遺贈の放棄は撤回することができない(民法989⦅遺贈の承認及び放棄の撤回及 び取消し⦆)。