1 相続の始まり
1 相続の意義
「相続」とは、個人が死亡した場合に、その者の有していた財産上の権利義務をその者 の配偶者や子など一定の身分関係にある者に承継させる制度のことをいう。
この場合、財 産上の権利義務を承継される者のことを「被相続人」といい、これを承継する者のことを 「相続人」という。したがって、相続とは被相続人から相続人に対する財産上の権利義務 の承継ということになる。
2 相続の開始
相続は、死亡によって開始する(民法882⦅相続開始の原因⦆)。つまり、被相続人の死亡という事実があれば当然に開始し、被相続人の死亡を相続人が知っていたかどうかを 問わず、相続人は被相続人の財産上の権利義務を当然に承継することとなる。
この死亡には、自然の死亡だけでなく、「失踪宣告」の制度による擬制死亡も含まれる。
〔失踪宣告〕
失踪宣告とは、生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制 度である。 失踪には、普通失踪と危難失踪の2種類あり、普通失踪の場合には不在者の生死が7年間 不明のときに、また、危難失踪(特別失踪)の場合には戦争、船舶の沈没、震災などの死亡 の原因となる危難に遭遇した者の生死がその危難が去った後1年間不明のときに、家庭裁 判所は利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができる(民法30⦅失踪の宣告⦆)。
失踪の宣告を受けた者は、普通失踪の場合には失踪期間満了時に、危難失踪の場合には危 難が去った時に、それぞれ死亡したものとみなされる(民法31⦅失踪の宣告の効力⦆)。 なお、失踪宣告を受けた者の生存が判明した場合には、家庭裁判所は失踪者本人又は利害 関係人の請求により失踪宣告を取り消すこととなる(民法32⦅失踪の宣告の取消し⦆)。
失踪の種類
普通失踪 不在者の生死が7年間不明であること 7年間が満了した時
危難失踪 (特別失踪) 戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危 難に遭遇した者の生死が、その危難が去った後1 年間不明であること 危難が去った時
3 相続の効果
相続の開始により、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896⦅相続の一般的効力⦆)。 この場合の「権利」とは一般的に「財産」と、また、「義務」とは「債務」と考えられ ている。
つまり、相続によって被相続人から相続人に承継されるものには、積極的な財産 (プラスの財産)のみならず、消極的な財産(マイナスの財産)も含まれる。 「一身に専属したもの(被相続人の一身専属権)」とは、その権利が専ら特定人の一身 に属し、他人が取得したり、他人に移転できないものをいう。例えば、相続による譲渡禁 止特約のあるゴルフ会員権、身元保証人の義務、税理士資格、年金受給権などが考えられ る。
4 相続開始の場所
相続は、被相続人の住所において開始する(民法883⦅相続開始の場所⦆)。 この被相続人の住所により、相続に関する訴訟、審判事件等の管轄が確定される。
(注) 相続税の納税地 相続税法では相続税の申告書の提出先は、納税地の所轄税務署長とされている(相 法27)。 この場合の納税地は、相続又は遺贈によって財産を取得した者の住所地であるが(相 法62①)、当分の間、被相続人の死亡の時における住所地とされている(昭和25年法附 則3)。 したがって、相続人の住所地が北海道や大阪であっても、被相続人の死亡時の住所 地が東京であれば、相続人全員が東京の被相続人のその住所地を所轄する税務署に相 続税の申告をすることになる。