相続の承認と放棄
1 相続の承認と放棄
相続の開始により相続人は被相続人に属する一切の権利義務を承継することになるが、債務が多いような場合には相続人にとって酷となるときもある。 そこで、民法は、相続は当然に生じるものであるとの原則の一方、相続人に対して相続財産を承継するかどうかについて選択権を与えている。
⑴ 相続の承認
イ 単純承認
単純承認とは、債務を含めた相続財産の全てを受け入れることである。相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する(民法920⦅単純承認の 効力⦆)。また、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときや、相続の放棄又 は限定承認をしなかったときは、単純承認をしたとみなされる(民法921⦅法定単純承 認⦆一、二)。
ロ 限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して行う相続の承認である(民法922⦅限定承認⦆)。つま り、一種の有限責任の承継である。限定承認は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続財産の目 録を作成して提出し、限定承認する旨の申述をして行う。なお、相続人が数人あると きは、共同相続人の全員が共同してのみ行うことができる(民法915⦅相続の承認又は 放棄をすべき期間⦆、923⦅共同相続人の限定承認⦆、924⦅限定承認の方式⦆)。
限定承認がされると、被相続人の財産は直ちに相続人に承継されるのではなく、一旦清算されることになる(民法927~937)。
⑵ 相続の放棄
相続の放棄とは、債務を含めた相続財産の全ての承継を拒否することをいう。相続の放棄は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をして行う(民法915⦅相続の承認又は放棄をすべき期間⦆、938⦅相続の放棄 の方式⦆)。したがって、単に遺産分割で相続財産を取得しなかったことは、法的には 「相続の放棄」ではない。 また、相続の放棄は撤回することはできない(民法919)。ただし、民法の一般規定に 基づく無効(錯誤等)や取り消せる場合(詐欺・強迫等)はあり得る。この意味で取消 しを認めている(民法919②)。